「体重が増えていない」とは、ふつう1回の測定の数字ではなく、成長曲線の上に現れた流れのことを指します。これまで沿っていた線から下向きに外れ続ける、増えるはずの時期に数週間ほぼ横ばいが続く、生後2週から3週ごろになっても出生体重に戻らない、といったパターンです。これは診断名ではなく、もう少し詳しく調べる理由です。あなたの育て方への評価ではありません。
「増えていない」が実際に指しているもの
母子健康手帳の後ろのほうに、乳幼児身体発育曲線のページがあります。健診で点を打ってもらう、あのグラフです。まず、いちばん誤解されやすいところから書きます。パーセンタイルは、同じ月齢の赤ちゃんの中でその子がどのあたりにいるかを示す「比較」であって、成績ではありません。帯の低いところを沿っている赤ちゃんが、高いところを沿っている赤ちゃんより出来が悪い、ということは一切ありません。
医療者が見ているのは、点の高さそのものよりも、点のつながり方、つまり向きです。気にかけられるのは、たとえばこういうパターンです。
- これまで沿っていたカーブから、下向きに外れていく状態が続いている。パーセンタイルの線が複数引かれたグラフでは、下向きに2本以上の線をまたいで下がり続けることが、ひとつの目安として使われます。
- 増えるはずの時期に、数週間にわたって体重がほとんど動かず、横ばいのまま。
- 生まれてすぐの生理的な体重減少のあと、生後2週から3週ごろになっても出生体重に戻っていない。
逆に言えば、1回の測定だけでこの判断はできません。服やおむつの有無、授乳の前か後か、うんちが出る前か後か、体重計が違うかどうか。それだけで数字は簡単に上下します。健診で一度低い数字が出たことと、増え方が続けて鈍いこととは、まったく別のものです。
グラフの帯や線が何を意味しているのかがそもそも分かりにくい、というときは、パーセンタイルの意味と成長曲線の読み方を先に読んでおくと、このあとの話が入ってきやすくなります。
健診や外来で聞く言葉について
いくつかの言い方に出会うと思います。どれも重さが違って聞こえますが、指しているものはよく似ています。
- 体重増加不良。増え方が想定よりゆっくり、という意味で、日本の小児科や健診でいちばんよく使われる言葉です。
- 発育不良。英語の faltering growth にあたる言い方で、成長曲線に対して伸びが追いついていない状態を指します。
- failure to thrive(成長障害)。古くから使われてきた英語の用語ですが、「うまく育てられていない」と親を責めているように響くため、今は意識的に使わない医療者が増えています。
大事なのはここです。これらはどれも、グラフに現れたパターンにつけられた名前であって、病名ではありません。原因はまだ分かっていない、という段階の言葉です。そして、どれ一つとして、あなたが何かを間違えたという意味を含んではいません。
体重の増えがゆっくりになる、よくある理由
調べた結果、治療が必要な病気が見つかることもあります。ただ実際に多いのは、もっと日常的な理由のほうです。
- 授乳のしかた。吸いつき方(ラッチ)や抱き方が少しずれているだけで、飲めている量は変わります。見た目には上手に飲んでいるように見えることも多いです。
- 母乳の分泌が足りない、あるいは一時的に落ちている。体調不良、疲れ、薬、授乳回数が減ったことなど、きっかけはさまざまです。
- 疲れやすい赤ちゃん。飲み始めてすぐ眠ってしまい、結果として1回に飲む量が伸びない。
- 舌小帯短縮症。舌の裏のひだが短く、吸いつきがうまくいかない原因になることがあります。
- 胃食道逆流。吐き戻しが多く、飲んだ分が残りにくい。
- 牛乳たんぱくアレルギー。湿疹、血便、強い機嫌の悪さなどを伴うことがあります。
- 感染症をくり返している時期。保育園に通い始めたあとなどによくあります。
- もともと小柄な赤ちゃん。最初から低めのところを安定して沿っていく子もいます。これはその子の体格であって、問題ではありません。
月齢が進んだ赤ちゃんでは、離乳食が始まる時期に母乳やミルクの量が一時的に減り、体重の伸びがしばらく平らになることもあります。原因がひとつに決まらないことも、めずらしくありません。
受診では何を診てもらうのか
次の受診が怖いなら、何をされるのかを先に知っておくと少し楽になります。だいたい、こういう流れです。
- きちんと管理された体重計で、条件をそろえて測り直す。裸、またはおむつだけ、という測り方が多いです。
- これまでの測定値を並べてグラフに描き、点のつながりを見る。1点ではなく線で見ます。
- 授乳の経過を詳しく聞く。回数、1回にかかる時間、途中で寝てしまうか、ミルクを使っているか。
- 実際に飲むところを見せてもらう。助産師や母乳外来で、抱き方や吸いつきを見てもらうことがあります。
- おしっこ・うんちの回数、量、色。飲めているかどうかの手がかりになります。
- 全身の診察。口の中、心音、お腹、皮膚、そして赤ちゃんの活気。
- 必要に応じて、血液検査や尿検査、小児科医や授乳の専門家への紹介。
日本では、相談できる場所は思っているより多くあります。産院の1か月健診と母乳外来、市区町村の乳幼児健診、保健センターの育児相談や身体計測の日、新生児訪問で来てくれた保健師さん、そしてかかりつけの小児科。まずはどこか一つに電話するだけで構いません。
受診のときに持っていくもの
母子健康手帳と、これまでに測った記録を持っていってください。「いつ、どこで、どんな服装で測ったか」までメモがあると、医療者は数字どうしを比べやすくなります。気になっていることは、忘れないように一言だけメモしておくと安心です。
何が助けになるのか、そして誰が決めるのか
多くの場合、必要になるのは大がかりな治療ではなく、授乳まわりの細かい調整です。抱き方を変える、授乳の間隔を見直す、舌の状態を診てもらう、アレルギーを疑って調べる。実際に効くことは原因によってまるで違います。だからこそ、その調整を決めるのは、赤ちゃんを直接見た人でなければなりません。
ここははっきり書きます。自己判断で授乳のしかたを変えないでください。ミルクを足す、量を増やす、粉ミルクを表示より濃く作る、哺乳瓶に重湯や離乳食を入れる、離乳食を予定より早く始める。どれも、良かれと思ってしたことが赤ちゃんの負担になり、かえって状況を悪くすることがあります。何をどれだけ、どのくらいの期間やるのかは、あなたの赤ちゃんを診ている医療者が決めることです。
哺乳瓶に何かを足すのは危険です
粉ミルクを表示より濃く作ったり、哺乳瓶に穀類や離乳食を加えたりするのは、腎臓への負担、脱水、のどに詰まらせる危険につながります。栄養を補う必要があるかどうか、あるとしてどんな方法をとるかは、医師の指示があるときだけ行ってください。
そして、母乳をやめなければならないと決まったわけでもありません。体重の増えを支えながら母乳を続けられることは多く、その道筋も含めて、担当の医療者と一緒に決めていくものです。
結果を待つあいだ、しないほうがいいこと
次の測定日までの数日から数週間が、いちばんつらい時間かもしれません。この時期に、状況を良くしないと分かっていることがいくつかあります。
- 家で毎日測らない。1日ごとの数字は、飲んだ量や排泄のタイミングで簡単に上下します。情報にはならず、不安だけが増えます。測る間隔は医療者と決めてください。
- 体重計を途中で変えない。機種が変わると、増えたのか減ったのかが分からなくなります。同じ体重計で、同じ条件で。
- 他の赤ちゃんや上の子と比べない。同じ月齢でも体格の幅はとても広く、上の子ともまったく別の体です。
- 罪悪感で授乳をやめない。「自分の母乳のせいだ」と思ってやめてしまうと、原因が分からないまま選択肢だけが減ります。
- 自分を責めない。ここに挙げた原因のほとんどは、親が何をしたか、しなかったかとは関係がありません。
代わりにできることもあります。おしっこ・うんちの回数、起きている時間、飲みっぷり、機嫌。気づいたことを短くメモしておくと、次の受診で、あなたにしか分からない情報を渡せます。
身長・体重・頭囲を、線でつないで見返す
BabyMindは、測った日の身長・体重・頭囲を記録して、これまでの推移をグラフで見返せるアプリです。公式の発育曲線を重ねて表示するものでも、診断をするものでもありませんし、健診での測定に代わるものでもありません。ただ、「いつ、どのくらいだったか」を受診のときにそのまま見せられます。
BabyMindをダウンロードその日のうちに連絡してほしいサイン
体重の話とは別に、次のどれかがあるときは、次の予約を待たずに、その日のうちに連絡してください。
- おしっこが出ていない、または明らかに回数が減っている
- 起こしてもなかなか起きない、ぐったりしている、体に力が入らずぐにゃっとしている
- 母乳やミルクを受けつけない
- 飲んだものを毎回吐いてしまう
- 生後3か月未満で、38度以上の発熱がある
- 呼吸が苦しそう。肩で息をする、胸やみぞおちがへこむ、うなるような呼吸をする
- うまく言葉にできないけれど、いつもと明らかに違う、何かおかしいと感じる
最後のものは、他と同じくらい正当な受診理由です。毎日その子を見ている人の違和感は、医療者にとっても大事な情報になります。判断に迷う夜間や休日は、こども医療でんわ相談(#8000)や救急安心センター事業(#7119)に電話できます。
最後に。「体重が増えていない」と言われた日は、頭が真っ白になるものです。それでも、これはあなたの子育てへの評価ではなく、もう少しよく見てみましょう、という合図です。あなたの赤ちゃんが元気かどうかを判断できるのは、その子の全体を診ているかかりつけの医療者だけです。次の受診まであなたにできるのは、記録を持っていくことと、自分を責めないことの二つです。